帰り道で
ああはなるまいと思うことばかりだ。人の多い場所ではとくに、インターネットでだって(ああはなるまい)。
電車の中で、手すりにも吊革にもつかまらず、揺れに耐えている女性がいた。私は終点まで開かないドアの前に立って外を見ていた。地下鉄の窓は車内を映す。
女性は私の背の近くで、片手で片腕の手首を握りしめて、足を「休め」の形に開いて立っていた。うつむいていて、サイドの髪が頬を隠していた。列車がポイントを通過して音を立てると、女性は左右に揺れた。足はふんばってるのがわかった。
車内は空いてはいなかったけど混んでもいなかった。女性が降車の邪魔になるとも思えなかった。女性も誰の邪魔もする気もないらしかった。なににもつかまらずふんばっていることを誰かにあてつけるためにしているわけでもないらしかった。ぜんぶ女性の自由の範疇にあった。
それで私は自分のことを考える。私はうつむいて、つかまらず、ふんばって、かたくなに誰かの注意を惹いてはいないだろうか。「ああはなるまい」なんて思われていないだろうか。