誰も隣に座らない人がいて
電車の中で両脇が空席のまま、座っている人。空いている席があるというのにドアに寄りかかって目をつむっている人は気になるか。あなたの隣に誰も座らなくても、あなたが必要以上にそのことを気にする必要はない。けれど私はあなたの隣に座らない。立ったままでいるだろう。
恋は違った。あなたでなければいけないと思ったし、座るように促して腕を引きさえした。その人は同じ電車の中にいるのに自分の隣にはいない。立ったままでいるか、どこかの誰かの隣へと腰をおろしてしまった。
考えてみたら、どうして失敗した恋なんて思い出したのか不思議だ。ただ「誰もあなたの隣にいないことをあなたはそんなに気に病むことはないけど、私はあなたの隣には座らない」という声を、私はいつかどこかで、誰かの困ったような顔に、見たことがあったのかもしれないと思った。
私はまたどこかでそんな顔を見ることになるだろうか。それとも私がそんな表情をしてみせるんだろうか。その時私は電車の中のあの人を思い出すんだろうか。