本の話はむずかしい
村上龍『音楽の海岸』を読んでいる。朝夕読んでいる。電車で読んでいる。不思議なことがある。この小説を鞄に入れて持ち運ぶようになってからというもの、電車で席に座ることができる。乗り込んだ駅から降車する駅まで座れる。ずっと読んでいられる。これはきっと作品のチャームだ。
しかし本当は知っている。『音楽の海岸』を持ち歩くようになったこの数日、私は10時に出勤して22時に帰るような生活をしていた。ラッシュから遠ざかっていた。そしてその勤務時間を設定したのは私ではない。その勤務時間を設定した人間は私が『音楽の海岸』を持ち歩いていることを知らない。
でも私は落ち着いて読みたかったがために、3本に1本くらいある、妙に混んでいる列車に遭遇したとき、その列車を見逃したのだ。改札に近い降車口からわざわざ3両も隣の車両に移動したりもした。読みたかったから。きっと作品のチャームだ。
アミの部屋の窓の描写が二度出てくるが、一度目と二度目でその向こうにあるものが違う。違うのだよ