四〇〇字程度

おもしろいこと言える大人になるためには何をすればよかったのかと考える無駄使い

とある文芸賞の受賞作品を読んでいる

筑波大学には文芸賞の運営を行う学生団体がある。私が在学中に創設され、年に1度学園祭に合わせ、受賞作の発表と、作品や受賞者インタビューを掲載した無料冊子を配布している。

今年は第6号が発行されていたのを、学園祭を覗いた際に入手した。

まだ掲載作品のうち、冒頭2編を読んだばかりだが、佳作受賞「雨傘」(吉野梔子)より。

わたしと言う人間は、真っ当に会話するよりも、よそ事を考えながらの方が優しいことが言えるらしい。(p22)

 私は齢を重ねることができたらすりきれてなくなってくれるだろうかと期待していることがあってそれは私という人間について語る言葉のすべてである。出さずにはいられないのだけど、出してしまうと人に屁を聞かれたように恥ずかしいのだ。

著者は学生で、主人公の「わたし」の語りをつづる文章のために「硬さ」を意識したとインタビューで述べている。私は上の一文に、濃くもなく薄くもなく、ただ名残るるような自己言及の影を見て、初老の男性の一人称の再現に苦心したという著者に「おもしろかった」と伝えたくなった。